新会長に聞く/中央労働災害防止協会/竹越 徹氏/コロナ下 安全支援強化へ
2021年8月16日
新会長に聞く/中央労働災害防止協会/竹越 徹氏/コロナ下 安全支援強化へ
働く高年齢労働者の増加など労働安全衛生を取り巻く環境は変化し、新型コロナウイルス感染拡大の影響も受けている。中央労働災害防止協会(中災防)は研修やセミナーのオンライン化など事業・サービスを継続・強化し、産業団体や企業に積極的に働きかけ、安全衛生水準の向上を支援する。7月1日に就任した竹越徹理事長(前日本製鉄常任顧問)に、社会への役割が増す同協会の事業にかける抱負を聞いた。
――コロナ禍は労働安全衛生に影響を及ぼしているのでは。
「企業や事業場、労働者は新型コロナの感染拡大防止を踏まえた上で安全衛生活動を行う必要に迫られている。安全衛生パトロールがコロナ禍で行えず、再開した時にいろいろな問題が噴出してきたとよく聞く。これまでと違った現象が起こる可能性があり、懸念している。中災防でも安全衛生活動や研修・セミナー、一堂に会しての集団討議や対面での直接指導を軌道修正し、事業のオンライン化を昨年の秋に本格化させた。各種サービスについて集客が戻っておらず、『特別民間法人』という名の民間団体としては収益的に非常に厳しい状況にあるが、日本の安全衛生水準の低下が起きないよう、時代の変化に的確に対応していくべきと考えている」
――直近の労災の発生状況は。
「20年の労働災害発生状況を見ると、休業4日以上の死傷者数は13万1156人と02年以降で最も多くなった。新型コロナの罹患による死傷者6041人を除くと12万5115人で前年比496人減となり、コロナは労働災害発生状況に影響を及ぼしているといえる。陸上貨物運送事業、小売業、社会福祉施設では新型コロナの罹患による労働災害を除いても死傷災害が増加している。原因の一つは新型コロナの感染拡大による外出自粛などの影響で宅配便の取り扱い個数が増加したこと。60歳以上が占める割合が多く、『転倒』や、腰痛など『動作の反動・無理な動作』も要因に挙げられる」
――鉄鋼、非鉄金属業界の労災の傾向は。
「鉄鋼・非鉄金属業界の労働災害の発生は長期的には減少しているが、下げ止まりの傾向にある。事故の型別をみると鉄鋼・非鉄金属ともに『はさまれ・巻き込まれ』が約3割を占める。私自身も鉄鋼業界で39年働いてきた経験があり、鉄鋼・非鉄金属業界が労働災害の比較的起きやすい業界であることは十分承知している。産業界の安全衛生活動の歴史は鉄鋼業界がリードし、今では多くの現場で使われている『ご安全に!』という言葉も私の出身母体である住友金属工業が使い始めてから浸透した。鉄鋼業界で蓄積された安全衛生のノウハウ、『安全第一』の理念が他の業界にも広がり、体感教育などを通じて労働災害防止に広く寄与してきた。17年に設立した製造業安全対策官民協議会で協議した安全に関する取り組みの改善策や新たに必要となる取り組みを中災防としても発信・周知していく。規模が小さくなるほど安全衛生にかける人材、お金、時間がないという現実、従業員の高齢化の問題、若年労働者の危険に対する意識の問題など課題は山積している。『非定常作業における被災』への対策の強化も喫緊の課題だ」
――高年齢労働者の増加・労災増加の傾向と対策は。
「高年齢労働者による労働災害への被災は注視すべきだ。20年の60歳以上による休業4日以上の死傷者数は3万4928人、災害件数全体に占める割合は26・6%と高い。『転倒』災害の発生率が高いのが特徴だ。働く高年齢者が増えることを考慮すると、安全確保・健康維持の取り組みや職場環境の整備といった事業場側の対応が不可欠になる。事業場側は20年3月に策定された『高年齢労働者の安全確保のためのガイドライン』に基づき、高年齢労働者が働きやすい職場づくりを進める必要がある。ガイドラインには中災防が作成した高年齢労働者の安全と健康の確保のための職場改善ツール『エイジアクション100』のチェックリストの活用が有効であると記述されている」
――10月に全国産業安全衛生大会を東京で開催する。
「昨年は残念ながらコロナ禍の影響で札幌での全国大会が中止となったが、日本の労働安全衛生の向上、災害の防止・減少、働く人の健康づくりに大いに貢献する学習・情報提供の場のため、今年は何としても開催したいと調整を進めている。現状は参加申し込みが伸び悩んでいる。コロナの状況がどうなるか見通せず、これまで参加されていた方が二の足を踏んでいるのではないか。今回は現地のほかにオンライン配信も実施し、初のハイブリッド形式での開催となる。オンライン配信は11月末まで視聴可能となっているので多くの情報を得る絶好の場になると考える。今回は申し込みもオンラインとなっていることにご注意いただきたい。多くの方の参加をお待ちしている」
――海外の労働安全衛生団体との連携は。
「当協会の技術支援部国際課が中心となり、海外の労働安全衛生団体とはさまざまな場面で連携をしている。中でもアジア太平洋地域の労働安全衛生分野の活動を促進する非営利団体で構成された国際組織のアジア太平洋労働安全衛生機構(APOSHO)は日本から中災防が参画している。今年のAPOSHOの年次総会は32年ぶりに日本で開催され、中災防が事務局を担当する。10月の全国大会と同時期にアジア太平洋地域の主要各国に一部欧米諸国を加えた21カ国・地域の加盟39団体が参加する『アジア太平洋安全衛生大会(APOSHO35)』として参加費無料で開催する。一般の参加者はオンラインもしくは全国大会の会場内のAPOSHO35サテライト会場でライブ中継が視聴可能でアジアなど各国の安全衛生に関する最新情報を得ることができる」
――協会の活動と課題は。
「中災防は事業場の安全衛生活動を支援することで労働災害を防止することを目的に設立された団体であり、経営理念である『全ての働く人々に安全・健康を―Safe Wоrk、Safe Life』が使命だと認識している。具体的には、「全ての働く人々に安全・健康を提供できるように職員全員が"オール中災防"で企業・労働者をサポートしていき、働き方・価値観等の多様化により日々変容する社会に貢献していく」ことが中災防の役割だ。労働安全衛生を取り巻く環境の変化に、より迅速かつ的確に対応し、それらに応える事業・サービスの提供を通じて各業界・企業の安全衛生活動の推進、安全衛生水準の向上を支援する役割を担っていきたいと考えている。労働安全衛生の課題に対し、国が施策を掲げているものが多くあり、国の施策とマッチングしたセミナー・研修事業に力を注いでいく。例えば金属アーク溶接作業者のための溶接ヒュームの健康障害防止対策の支援、石綿則改正に伴う支援、エイジフレンドリーガイドラインの普及に伴う高年齢労働者の支援、職長能力向上教育、来年1月1日で旧規格の安全帯が使用不可となることを受けたフルハーネス型墜落制止用器具に係る特別教育などがある」
「労働災害が増加している小売業、社会福祉施設、飲食店など生活の根幹を支えてくれている第三次産業に対する支援も積極的に行う。厚生労働省と中災防が主唱となって18年から実施している『安全で安心な店舗・施設づくり推進運動』を展開する。労働災害の防止対策が人員損失の防止につながり、経営課題の対策としても認識されるよう啓発していく。第三次産業の中で小売業、社会福祉施設では60歳以上が死傷者数全体の約3割を占める。小売業、社会福祉施設、飲食店の労働災害の状況を事故の型別による死傷者数で見ると、いずれの業種も『転倒』が全数の約3割を占めており、転倒災害防止対策を呼び掛けていく。インターネット上のプラットホームを通じて単発の仕事を請け負う労働者の『ギグワーカー』の問題もある。全国大会ではギグワーカーたちを対象としたアプリを運営するタイミーの社長である小川嶺氏、執行役員の石橋孝宜氏と厚生労働省労働基準局安全衛生部安全課長、中災防による対談を予定し、第三次産業の就業への課題などを取り上げる。これまで中災防は、単発請け負いのギグワーカーたちへの安全衛生については視点を欠いていた。しかし今後は、ギグワーカーたちの労働災害防止を強化したい考えであるタイミーに中災防も積極的に協力する予定だ」
――ISO45001、JIS Q 45100の普及の状況は。
「労働安全衛生マネジメントシステムの国際規格ISO45001」(JIS Q 45001)に日本企業の安全衛生活動として定着している4Sや危険予知(KY)活動など日常的な取り組みを盛り込んだ規格がJIS Q 45100。6月30日現在で労働安全衛生マネジメントシステムISO45001/JIS Q 45001は60件、JIS Q 45100は57件の認証登録をしている。コロナの影響で認証審査が遅れる場合もあり、対応策の一つとして情報通信技術を活用したリモート審査も実施している。企業がISO45001/JIS Q 45001、JIS Q 45100の認証を取得することで、健康的で安全に働ける企業であるという社会的な信頼を獲得でき、国際的にも認められる。安全衛生の専門家の審査を通じて労働安全衛生マネジメントシステムの強化が期待できる」
――海外の労災の内容と対策の相違点、参考点は。
「共通の物差しがないことや各国の経済、産業・就業構造、法規制によって状況が違うため、一概に日本と海外の労働災害の状況を比較することはできないが、各国統計の比較を試みるとするならば、死亡災害発生率の低さのトップクラスは英国、オランダ、ドイツなどで日本はそれらに続く位置にある。一方、死傷災害についても各国の休業日数のカウントの仕方や報告制度などの相違で一概に比較できないが、日本の死傷災害発生率は低い水準にあり、EU諸国、米国が続く。日本は長年、官民一体となって事業場の安全衛生活動の促進に取り組んできた結果だと言える。5S活動やヒヤリ・ハット、ゼロ災運動などの企業の自主的な取り組みなどが大きく貢献している。中災防として引き続き、ヒューマンエラー災害防止のため、ゼロ災活動などの普及促進にも努めていく」(植木美知也)


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